アストリッドとラファエル

 

表題のとおりフランスのテレビ番組「アストリッドとラファエル」にハマッています。現在シーズン3の第4話まで。落ち着いて見られて、でも刺激的で面白く、おすすめです。


少し前はイギリスBBC制作までの「ブリティッシュ・ベイクオフ」にハマッていて、しかもシーズン終了まで決着がわからないリアリティショーなので随分寝不足になっていました。

それに比べるとこちらの番組はドラマであり、大体一話完結なので大丈夫だろう。と思っていたものの、面白いし、ネット配信の困ったところで、終わるとすぐ次の話が始まるので、一話完結系でもつい見てしまいます。お陰様で今日もこんな時間です。

昔から推理小説が好きでした。謎解きが好きだからかもしれません。未知のものを知りたいという欲求からかもしれません。そして人間の激しい、本能的な、ある種負の側面が否応なしに現れるジャンルだからだと思います。実際日本の警察の現場においても、つくづくそう感じてきました。

小さい頃は家に全巻あったホームズシリーズを好んでいたのですが、一部あったアガサ・クリスティの著作を読んでからはすっかりアガサ・クリスティの著作に夢中になりました。というのも、アガサ・クリスティの著作は、それまでの常識を覆すトリックだけではなく、人間性の洞察に優れたヒューマンドラマに重きが置かれているからだと感じます。

なので改めて己の内面に問うに、私は現実に根差した人間の心の機微に丁寧に触れ、かつ、人間という存在に対する高い関心と理解を持った、エンターテインメントとして楽しめる読み物が好きなのだと実感しました。

本筋とそれるのでその件についてはさておき閑話休題。

「アストリッドとラファエル」は、現代の社会問題を取り上げつつ、多様なルーツを持つ人間の文化や心理、相互理解に踏み込んでいる点がとても好きです。個人的にヒューマンドラマの比重が高いと思います。というより、前述のとおり、事件というものが、人間性を詳らかにする性質を持つからなのかもしれません。

日本の警察機構については前職がそうだったので何となくわかりますが、フランスの警察機構については疎いです。そのため、ラファエルが「警視(Commandant=司令官)」という階級なのにも少し驚きました。日本で言えば、地方の警察署長や副署長に相当する、現場に足を運ばない事の多い階級だからです。が、実際ドラマ中で見ていると、凡そ日本における警部あたりに相当するように思います。違いが面白いです。

また、温かな視点と、耳目を集めるために無暗にセンセーショナルな表現を行わない、ほのめかしに留めていながら十分表現しきっている事にも好感を覚えます。ダブル主役であるアストリッドとラファエルについても、でこぼこな関係ながら親交を深めていく過程が温かで、どちらの長所も短所もうまい具合に生かされている=否定されない事もとても好きです。

ラファエルは母としての側面があるからからか、アストリッドとは親友であり、また、彼女の守護者としての温かみを感じる所が好きです。アストリッドの持つ、一般的に「欠点」とされる社会性の乏しさ=事実を事実のまま受け止める素直さもとても好きです。これは、研究者にとっては長所だと思うからです。当初自閉症について無理解だった事にも徐々に理解を示していく、仲を深めていく過程がごく自然で、共感も覚えます。

そして何より、前述のとおり、パリ警視庁の構成員達が多様なルーツを持つ人々で構成されている事にも好感が持てます。多様性というのは、こういうものなのだとも思わされます。無理に配役しているようでもなく、キャラクターの背景もステロタイプでもなく、ごく自然に存在し、それぞれのルーツを尊重し、長所も短所も魅力的に描かれています。

日本に対する偏見も極力排除されている所も良いですね。日本にルーツを持つ俳優を起用している点も。ヘルメス・トリスメギストスの著作に触れられているところなど。それぞれの事件で宗教やオカルト的な要素も好奇心をくすぐる題材として取り上げつつ、馬鹿にする事なく扱う面も良いです。

さておき。本当に、実に素敵なシスターフッドやブラザーフッドを主軸とした、押しつけがましくない「善き人々」のお話だと思います。また、「一般的かつ大多数の人間は、『弱さを認めながら正義を重んじ、自ら考え善き人であろうとする』ものではないか」という希望も持てました。

フランス作品らしく(これは私の偏見です)恋愛が欠かせないところはご愛敬というところで。それでもその「恋愛」に関する多様なあり方も、心休まります。ウィリアムとベレジン28、アストリッドとテツオの関係がまさにそれですね。

元はといえば年末年始の帰省時に、母がこの作品にハマッているという事が視聴の切っ掛けでした。これは確かにハマるでしょう。私の創作物語「ヘルマオン」「終焉のパンドラ」では、フランスにルーツを持つ主人公たちが存在するのもまた後押しになりました。新シーズンも今から心待ちにしています。そしてこの作品に感じる「創作者の善意」が、このまま続いていく事も願います。

【余談】

LINEスタンプに「グレートサバくん」という、様子のおかしなフランス語を喋るサバくんのスタンプがあります。凄く可愛くて、つい多用したくなってしまいます。おすすめです。

【もっと余談】

何話目かに、フグ毒であるテトロドトキシンの話が出てきます。これは母から聞いた話なので眉唾で見て頂きたいのですが、母方の祖父の知人がフグに中った時「ユキノシタをすり潰して汁を飲ませ、頭だけ出して土の中に埋める」という民間療法が用いられたそうで、その知人はなんとか助かったそうです。そんなんで治るとは私自身も疑い深く思っていますが、そういう話があったのを思い出しました。

ちなみに、フグ(トラフグなど)が毒を持つのは、毒を持つ貝を稚魚のうちから捕食し、その毒を蓄えるからだと言われており、理論上その貝が生息しない養殖場で育てられたフグは毒を持たない……。と、故郷では言われています。学術的な証明がなされているわけではなく、地元だけでひっそり言われている話です。

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