それは「ピエトロ」のレストランに連れて行って貰った日。小さい頃からわけあってスパゲティが苦手だったんですが、ピエトロで食べたスパゲティから、一気にスパゲティの風景が変わりました。そんな食べ物話。
まずなぜスパゲティが苦手だったかというと、幼少期に身近だったスパゲティがナポリタンかミートソースしかなかった事。そして私がケチャップがあまり好きではなかった事。かつ、ピーマンが大の苦手だった事。ミートソースは渋々食べても、ナポリタンだけは苦手の集合体というありさまでした。
トマトは野菜の中でも特に好きで、トマトジュースも大好きです。(小さい頃なぜか甘いジュースも苦手で、ジュースというとトマトジュースか、偶に飲めるダイヤモンドガラナしか飲みませんでした。)なのにケチャップだけは苦手でした。今は苦手じゃないですけどね。またね、父がなんか料理すると大体ケチャップ味かウスターソース味になるんですよ。父がケチャップ大好き人間なので、母や祖母の作る料理もケチャップナイズされて飽きたというのもあるかもしれません。
ところで家にあるドレッシングというと、ピエトロ一択でした。なので初めてピエトロのレストランに連れられて行った時、「ドレッシング屋さんでは?」と思ったのも覚えています。
小学校高学年だか中学生の頃だったと思います。家族で福岡のキャナルシティに出かけた時のこと。私は漸く自分の「財布」というものを持てて(おこづかい制ではありませんでした)、意気揚々としていました。
ところがどっこい。施設内のトイレでうっかり財布を個室に置き忘れ、慌てて戻ったたった数分の間に無くなってしまいました。今にして思えば、もしかしたら行き違いで親切な人が施設に届けてくれていたり、警察に届けてくれていたりしたのかもしれませんが、ともあれ、見つかりませんでした。
うきうき気分が一転、大泣きしたどん底の気持ちで両親から宥められながら「とりあえずご飯を食べよう」と連れられた先がピエトロでした。我ながら導入が長い。
どん底気分だったからなのか、ぼんやりメニューを眺めていて注文したのがナスとピーマンのスパゲティでした。たぶんベースの味付けはペペロンチーノ風だったと思います。(ぐぐったところ、どうやらシチリアーノという品名だったようです。)
なぜピーマンを選んだ。
今にして思うと不思議でたまらないのですが、食べるどころの気分じゃなかったから、なんとなくビジュアルと名前で決めたんだと思います。絵と文字情報に弱いがゆえに。そして注文した後で「もしかしてこれピーマンとナスでは……(そうだよ)」と更に愕然としたのも覚えています。ナスも、あまり得意な野菜ではありませんでした。
ほどなくしてスパゲティが届けられ、きれいに盛り付けられた大きなナスとピーマンを前にどんよりしたまま食べてみたところ。
滅茶苦茶美味しかったです。
好きな食べ物をあげるとしたらグラタンだった人間ですが、グラタンを飛び越して一位に躍り出る美味しさでした。
たぶん、ナスとピーマンは素揚げ状態だったと思います。だからナスの苦手なアクもあまり感じないし、ピーマンも全然苦くなかったです。熱々でちゃんと麺にもコシがあって。そして何より、初めて遭遇した赤や茶色ではないスパゲティソース。白いけど味はしっかりついていて、なんかよくわからんけど美味しい。ただただ美味しい。
本当に美味しかったんですよね。財布もお金も無くなって土砂降りどん底気分が突然爽やかな晴れ空に変わる勢いで。私が気分屋というところもあるかもしれませんが。
そんなわけで、あの日はスパゲティとピーマン、ついでにナスへの苦手意識が突然解消された日でした。
色々食べてみるものですね。苦手を克服していった経験はまだほかにもあるのですが、これほど衝撃的だった事もありませんでした。
今もケチャップ絡めのスパゲティは若干苦手ですが、トマトソースは大好きです。手軽に買えるコンビニ系だと、ボンゴレビアンコ(トマトじゃないやんけ)とアラビアータが好きです。
たまに実家から届けられる物資の中に、ピエトロの「絶望スパゲティ」が入っています。さすがにお店で食べるのとは違いそうですが、たしかにこれは多少がっくりしている時でも食べられるな……と思います。
ピエトロ大好き。ピエトロフォーエバー。ドレッシングの賞味期限だけシビア。
他にも色んなスパゲティ屋さんがあるとも思いつつも、現状の私のベストはピエトロです。